PEOPLE
2018.11.22 2018 AUTUMN & WINTER ISSUE 掲載

落語家 春風亭一之輔さんに聞いた“人前で話す”こと

OWNの呼吸

落語がブームと言われて久しい昨今。噺家(はなしか)の芸を楽しむだけでなく、人前でスピーチをする機会の多い管理職世代のための落語教室も人気 。春風亭一之輔さんに“話芸”と“話術”について伺いました。

春風亭一之輔 しゅんぷうてい・いちのすけ  落語ブームをけん引している、人気落語家。1978 年千葉県生まれ。2001 年、日本大学芸術学部卒業。同年、春風亭一朝に入門。人間国宝・柳家小三治が「久々の本物だ」と称賛し、2012 年、異例の21 人抜きで真打昇進。

 

噺すこと、話すこと。

「落語ブーム──。確かに寄席(よせ)に若い女性は増えていますねぇ。“ジェントルウーマン”って言うんですか、OWNを読んでいる30代後半から40代の女の人なんて、寄席のお客様の中では若い方ですよ。新しく興味を持ってくださるのも、ちょうどその位の年の女性が多いかな。落語っていうのは究極の一人芸で、噺家がひたすら喋るのをお客様が想像力を働かせながら集中して聞くわけで、ある程度年齢や経験を重ねると、面白みがわかってくるのかもしれません。

噺家の場合、高座(こうざ)に出ている間は時間も空間も自分に委ねられているわけで、そこでいかにお客様を自分のペースに引き込むことができるかが勝負です。これって仕事のプレゼンテーションとか、結婚式のスピーチなんかも一緒かもしれませんよ。まず本題に入る前に軽く座を温める。落語で言う“枕”ですね。名刺を渡しながら“何で親が私にA子という名前をつけたかというと”とやれば名前を覚えてもらえるし、今朝何を食べたかでも、時事問題でも天気の話でもいいんです。相手が本題に耳を傾けやすくなりますし、こっちも気が楽になりますよ。できることなら、その“枕”が、少しでも本題につながるとベストですね。僕も夫婦のネタをかける時は、ウチのカミさんの話から入ったりしています。

後は、あっちゃこっちゃ話が飛ぶのはダメですね。話を広げると散漫になってしまうので、話したいことを絞って、つまらないことでもディテールを掘り下げていく。これも大事ですねぇ。こじんまりと喋るより、なるべく周囲に目線を配りながら話せるといいですね。下を向くと陰気になりますからね。ま、僕の場合は眼鏡を外して高座に上がると一番前のお客様の顔もよく見えませんから、それでアガらない、というのもあるんですけどね。近眼でアガり症の人は、眼鏡を外してスピーチする、というのもアリかもしれません。

大事なのは“根拠のない自信”です。話す側が緊張していると、聞く側も“この人、大丈夫かな?”と不安になるもんです。腹をくくって、自分のペースで図々しく喋れば、案外、聞いてもらえるもんですよ。

“ジェントルウーマン”におすすめの落語のネタ? 吉原が舞台の噺なんてどうでしょう。遊郭って男のための世界だと思われがちですが、太夫と呼ばれるような花魁(おいらん)は、当時のファッションリーダーであり、キャリアウーマンだったわけですから」(春風亭一之輔)

文/清水井朋子 写真/キッチンミノル