PEOPLE
2018.6.14  2018 SPRING & SUMMER ISSUE 掲載

作家・池井戸 潤さんインタビュー【後編】

映画『空飛ぶタイヤ』全国公開中!

“現実に救いがなくても、物語はそれを超えていける。
僕は、自分が面白いと思うものを書き続けます”

 

ときに清濁併せ呑む、人間的な強さを持って

ひとりひとりの人間がきちんと存在してこそ、物語が物語として動く。それはまるで、私たちが生きる社会そのもののようです。小説の中に《結局のところ人は皆、歯車である》という印象的なフレーズが登場しますが、これまでも池井戸さんの作品ではしばしば、大きな機構を動かすための歯車やネジといった小さな部品に、人間の宿命が託されます。

「わかりやすいかな、と思って。でも、どうでもいいものだというわけじゃない。歯車というと、使い捨てのつまらない部品だと思われがちですが、ものづくりの現場からすると、歯車は技術リソースの集積。その精度によって、その国の技術レベルがわかるというくらい、非常に重要なものなんです」

人という歯車が組み合わさって、ひとつの会社になり、それはまた社会の構成要素として世の中に影響を及ぼしていく。「皆がきちんと回ってなきゃいけない」と池井戸さんが言うように、たとえひとつの歯車であっても、より有用に動く、そのための秘訣もありそうなのですが……。

「それを言い当てるのは、なかなか難しいですね。でも、たとえばこの作品の沢田がそうであるように、自分に正直であるというのはひとつ、いいのかなと思います。何も自分が損をするようなことを、あえて言ったりやったりする必要はない。とくにこの先何年、何十年もサラリーマンとして働くなら、短期的なことでいちいち白黒つける必要はないんです。

上に立つ人間だって、これはおかしいな、よくないなということは、部下よりもよくわかっているんです。だから、いちいち反応しなくていい。正義感から『こんなのは必要ない』『間違ってる』と言い立てると、使えない歯車だということになってしまう。ここはしょうがない、と清濁併せ呑んで、目をつぶってハイハイと流しておくことも、ときには必要。で、5年、10年経って、偉くなってからちゃんと修正すればいいんです。

そういう賢さみたいなものがないと、サラリーマン社会ではやっていけないでしょう。ましてや、企業の体質改善とか、大きなことに取り組むなら、もっと長い時間が必要。それに、どこに行ったって嫌なヤツは必ずいるし、それはもう自然の摂理だから仕方がない。だから、ちょっとずるいなと思うかもしれませんが、長い目で見て賢く生きる、そういうやり方もいいんじゃないでしょうか」

 

性別も年齢も関係ない。仕事は「共通言語」だから

名もなく、それでも誇り高く生きる人の姿。「あくまでもエンタテインメントとして」それを届けるのが、仕事人としての池井戸さんの矜持といえるのでしょうか。

「僕の小説を読んで『現実はそんなにうまくいかない』と言う人がいます。当たり前ですよ、フィクションなんだから。そんなこともわからずに書いているわけじゃない。でも、皆が泣き寝入りして終わる、救いのない現実をひたすら現実的に描く結末があったとしても、僕はそういうものは読みたくないし、書きたくないんです。

だから、自分が面白いと思う物語を書く。読者の声? もちろん、目を通しています。世に送り出すものは商品ですから、その反応を見るのは、作り手として当たり前。最近、SNSなんかで『池井戸的展開』って書かれることがあるんですが、ついに名詞じゃなくて形容詞になったのか! って(笑)。そうなると、ちょっと期待を裏切ってみたい気もするんだけど」

現実の明日へ向かう勇気を与えてくれる作品は、きっと作者のタフさに由来するのでしょう。ちなみにご自身の分析によると、読者は「4対6で4が女性」とのこと。5年、10年先とは言わず、近い将来、凛々しい大人の女性を主人公にした物語を届けてくださることを、期待してもいいでしょうか?

「女性はね、書きにくいです。だって、何考えてるかわからないし(笑)。だから、女性キャラクターの内面には、決して踏み込まないようにしています。でも、仕事は共通言語。女性だろうがおっさんだろうが意見はあるし、性別や年齢を超えたところで全員が議論できる。そういう物語は、きっと書き続けていくでしょうね」

>>池井戸 潤さんインタビュー【前編】はこちら


『空飛ぶタイヤ』新版
敵は名門巨大企業。それでも闘わなければならないときがある──。不退転の覚悟を持って事故の真相に迫る男、その思いを受け止めて動き出す男、ふたつの運命の変転を軸に壮大なスケールで社会を描いた、骨太なエンタテインメント。きっとどこかで、あなたに似た人と出会うはず。
1900円/実業之日本社

PROFILE
池井戸 潤 Jun Ikeido
1963年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒業。1998年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、2011年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な作品に「半沢直樹」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『民王』などがある。昨年は『アキラとあきら』『陸王』のドラマ化が話題に。

【映画『空飛ぶタイヤ』 2018年6月15日(金)全国公開!】

監督:本木克英 脚本:林 民夫 配給:
松竹 出演:長瀬智也、ディーン・フジ
オカ、高橋一生、深田恭子、岸部一徳、
笹野高史、寺脇康文、小池栄子、阿部顕
嵐(Love-tune/ジャニーズJr.)、ムロ
ツヨシ、中村蒼ほか
© 2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
撮影/武蔵俊介 インタビュー・文/大谷道子