PEOPLE
2018.6.13  2018 SPRING & SUMMER ISSUE 掲載

作家・池井戸 潤さんインタビュー【前編】

映画『空飛ぶタイヤ』、6月15日(金)いよいよ全国公開!

これは、私たちの物語──
小説家・池井戸 潤さんの作品に胸を揺さぶられるのは、いつもそう感じるから。
登場人物たちの確かな鼓動は、映像化によりさらに多くの人へ。
6月15日に公開される映画化作品『空飛ぶタイヤ』に込めた思いを紐解きながら、
物語を生み出す仕事の醍醐味に迫りました。

 

“いちいち白黒をつける必要はない。
大事なのは、時間をかけて状況を変えていく「賢さ」です”

 

問題意識と反骨精神から 逆転の物語が生まれた

トレーラーからのタイヤ脱落による人身事故が発生。道義的責任と経営危機、ふたつの重い課題に立ち向かうこととなった運送会社社長は、事故の背景に潜むある真実にたどり着く──。長瀬智也さん、ディーン・フジオカさんのタッグで早くも話題沸騰の映画『空飛ぶタイヤ』。意外にも、池井戸 潤さんにとって初の映画化作品です。

「原作を読んだ人なら『これ、2時間で収まるの?』ときっと思うでしょうね。でも、映画は物語の骨格部分をうまく抽出して、ドラマとして上手に組み立ててあった。構成の妙で面白いものができる、いい例じゃないでしょうか。長瀬さんも、全く違和感なく運送屋の社長になりきられていましたね」

原作が執筆されたのは、およそ13年前。物語の緒となったのは、当時、池井戸さんが抱いていた、ある問題意識だったといいます。

「ちょうど、企業のコンプライアンス(法令遵守)が叫ばれ始めた頃。そして、不祥事が起こっても大企業なら許されてしまうのか?ということ。それらに正面から向き合ってみようと思って書いたので、僕の作品の中では例外的にテーマ性の強い作品だと思います。

あと、その頃は作品を企業小説というジャンルに分類されるのが嫌で、そうじゃないものを書こうとしていたんだけど、どうやっても企業小説の棚に入れられるので、開き直って『じゃあそれらしいものを書きますよ』と。そうしたら、直木賞の候補に取り上げられたりして、逆に文芸作品として認知されることになった。不思議なものです」

 

複雑な人物を精緻に描き、リアルな世界を作り上げる

中小企業経営者の辛さとともに、多くの人が共感を覚えるのは、リコール隠しの疑念を抱く大手自動車メーカーの課長・沢田の葛藤。ディーンさん演じるこの人物は、正面切って黒を黒と言い切ってみせながら、ときに出世をちらつかせる経営側に絡め取られるなど、複雑な動きを見せる人物です。

「むちゃくちゃ生々しいサラリーマンですよね。自分の得になることはやるけど、そうでないとあっさり見過ごす、実に正直で人間らしい男(笑)。最初は『何だ、こいつ』と思っても、読者が感情移入するうちに理解を深めて、そのうちに本人も変わってくる。そういう変化球的なキャラクターは、小説を動かすのに大事な人物です。

そのほか、たぶん全部合わせると70人近い人が出てくる。とにかく多くて、これを書いているときだけは、イメージ顔写真つきの登場人物一覧表を作りました」

多くの人間関係が複雑に絡み合った物語。そのすべての人の人生が「きちんと積み重なっていることが必須」と池井戸さん。人物を会話から精緻に造形し、その人生の時間を描き切ることが、作家の力の注ぎどころだと言います。

「プロット(筋立て)を優先すると、どうしても歪ませなきゃならないキャラクターが何人も出てくる。読み進めてきた読者に『この人がこんなことをするはずがない』『こんなこと言うかなぁ』と思わせたら、そこで物語は破綻する。書かれる内容の事実的な正しさも大事ですが、登場人物のブレこそが小説の最大の瑕疵なんです。

だから、一度書き上げたものは、いろんなキャラクターの立場から見直します。皆がうまく、自然に動いているか、無意識に筋に沿って誘導してないかと、何度も」

>>池井戸 潤さんインタビュー【後編】に続く


『空飛ぶタイヤ』新版
敵は名門巨大企業。それでも闘わなければならないときがある──。不退転の覚悟を持って事故の真相に迫る男、その思いを受け止めて動き出す男、ふたつの運命の変転を軸に壮大なスケールで社会を描いた、骨太なエンタテインメント。きっとどこかで、あなたに似た人と出会うはず。
1900円/実業之日本社

PROFILE
池井戸 潤 Jun Ikeido
1963年、岐阜県生まれ。慶応義塾大学卒業。1998年『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、2010年『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、2011年『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な作品に「半沢直樹」シリーズ、「花咲舞」シリーズ、『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『民王』などがある。昨年は『アキラとあきら』『陸王』のドラマ化が話題に。

【映画『空飛ぶタイヤ』 2018年6月15日(金)全国公開!】

監督:本木克英 脚本:林 民夫 配給:
松竹 出演:長瀬智也、ディーン・フジ
オカ、高橋一生、深田恭子、岸部一徳、
笹野高史、寺脇康文、小池栄子、阿部顕
嵐(Love-tune/ジャニーズJr.)、ムロ
ツヨシ、中村 蒼ほか
© 2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会
撮影/武蔵俊介 インタビュー・文/大谷道子